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長崎に原子爆弾が投下

広島市に原爆が投下された86日と同じく、かつて天皇が、日本人が絶対に忘れてはならない日の一つとして89日を挙げられました。太平洋戦争末期の1945(昭和20)89日午前112分、長崎市に人類2度目となる原子爆弾が米軍によって投下された日です。

昭和20年の当時、長崎市の人口は約24万人でしたが、約3.25%にあたる74,000人が死没したと言われています。(原爆症によるその後の犠牲者は除く。) 



長崎原爆「ファットマン」の模型とキノコ雲
ファットマンの模型(長崎原爆資料館)



被爆直後の長崎市
被爆した長崎市(長崎原爆資料館)


当時長崎市は、1945(昭和20)初頭から他の都市と同様に警戒警報や空襲警報を発令される日が多くなっていましたが、ラジオからは「佐世保軍港上空に敵機B29来襲」、「大村海軍航空隊上空をB29が飛行中」などの放送が多く、長崎市は、佐世保市や大村市と比べて空襲の頻度は少なかったといえます。

ではなぜ長崎市が選ばれたのか?1945年7月25日、アメリカ陸軍省参謀本部司令としてトーマス=ハンディ参謀総長代理からカール=スバーツ陸軍戦略航空隊総司令官宛に次のような命令が下されました。以下のその要旨です。



 

  1945年8月3日以降、最初の特殊爆弾(※原爆のこと)をもって攻撃目標の1つに目視投下すること。

  目標は、広島市、小倉市、新潟市、長崎市とする。

  爆発効果の観測及びその記録を行うこと。そのため観測機を随行させること。

  準備完了次第、2発目を投下すること。

  特殊爆弾の使用に関する情報は、陸軍長官と大統領以外には漏らさないこと。

  特殊爆弾に関するニュース記事は、すべて陸軍省の特別検閲を受けること。

  マッカーサー元帥とニミッツ提督には情報を手渡すこと。


「マンハッタン計画」の実施責任者であるグローブス准将からカール=スバーツ陸軍戦略航空総司令官宛の内容はさらに踏み込んでいます。

  第20航空軍第509混成群団諸隊は、8月3日以降、なるべく早い時期に天候状況を見て次の攻撃目標のうち1つに対して特殊爆弾第1号を投下すること。攻撃目標は、広島市、小倉市、新潟市、長崎市とする。

  追加爆弾は、準備ができ次第、前記目標に投下すること。前記4都市以外の目標については別に指示する。


レーダー投下ではなく目視投下が厳命されているのは、数少ない貴重な原子爆弾の効果を正確に評価するためには、目標から外れることがあってはならないと考えたからだといいます。



 



<目標地の変遷>



原爆投下の目標値は最終的に広島市、小倉市、新潟市、長崎市の4都市に絞られましたが、決定までの変遷は次の通りです。


1945年5月12日京都市、広島市、横浜市、小倉市


1945年5月28日京都市、広島市、新潟市

※横浜市は外された翌29日の横浜大空襲で壊滅的被害を受けたから。横浜市に当かされた爆弾の総トン数は太平洋戦争中の空襲では最大。


1945年7月3日京都市、広島市、小倉市、新潟市


1945年7月24日広島市、小倉市、新潟市、長崎市

※京都市が除外されて長崎市が加えられた。


7月25日、トルーマン大統領が原子爆弾投下の指令を承認。ハンディ陸軍参謀総長代理からスバーツ陸軍戦略航空隊総司令官宛てに原爆投下が指令され、広島市・小倉市・新潟市・長崎市のいずれかに8月3日以降の目視投下が可能な天候の日に「特殊爆弾」を投下する、と決まりました。

アメリカは、1945427日の第1回目標選定委員会において焼夷弾による無差別爆撃対象として人口順に180あまりの都市をリストアップしていました。代表的な都市は以下の通りです。

(1)攻撃目標東京都区部(※昭和18年に府から都になった)、横浜市、名古屋市、大阪市、京都市、神戸市、八幡市(現在は北九州市)、長崎市。

(2)研究対象東京湾、川崎市、横浜市、名古屋市、大阪市、京都市、神戸市、広島市、呉市、下関市、山口市、八幡市、小倉市、熊本市、福岡市、佐世保市。


日本の軍需工場がある四大工業地帯(京浜・中京・阪神・北九州)や現在の瀬戸内工業地域に集中していることがわかります。

1945年8月2日、第20航空軍司令部が「野戦命令13号」を発令し、ソ連の対日参戦の前にあたる8月6日に原子爆弾による都市爆撃を決定。攻撃の第1目標は「広島市中心部および周辺工業地域」(※照準は相生橋付近)、天候不良による第2目標は「小倉造兵廠及び小倉市中心部」、同じく第3目標は「長崎市中心部」と決まりました


1945年8月6日午前8時15分、B29エノラ・ゲイ号がウラン型原子爆弾「リトルボーイ」を広島市に投下

1945年8月8日、ソ連がヤルタ会談に基づき日ソ中立条約を破棄して日本に宣戦布告。同日、第20航空軍司令部が「野戦命令17号」を発令し、翌日(8月9日)に2度目の原子爆弾による都市攻撃を決定。攻撃の第1目標は「小倉造兵廠及び小倉市中心部」、天候不良による第2目標は「長崎市中心部」(※照準は中島川下流の常盤橋周辺)と決まりました。


1945年8月9日午前11時2分、B29ボックスカー号は、第1目標の小倉市上空が八幡空襲で生じた靄(※八幡製鉄所職員が煙幕をつくり出したという証言もある)による天候不良のため、第2目標の長崎市にプルトニウム型原子爆弾「ファトマン」を投下しました。

崩壊した浦上天主堂
浦上天主堂のマリア像(長崎原爆資料館)
影がやきついた写真
 人間の影だけが焼き付いた写真(長崎原爆資料館)
 



<長崎が原爆投下目標地に選ばれた理由>



長崎が原爆投下の攻撃目標に選ばれたのは、(1)戦艦「大和」の同型艦「武蔵」を造った三菱造船所があること、(2)ハワイ真珠湾攻撃の時に使用された「酸素魚雷」を造った三菱兵器製作所があること、などが挙げられます。

長崎市の大きさは南北6㎞、東西6㎞で、市街地はヒトデのような形に伸び、人口は約24万人。原子爆弾の目標地としては、広島市や小倉市と比べて規模が小さく、米軍捕虜収容所があったため第3目標になったと言われています。

長崎市は2つの山の間にある細長い都市のため、爆弾の効果が十分に発揮されないうえ、既に5回の空襲を経験し、136機の爆撃機から270トンの爆弾と53トンの焼夷弾、20トンの炸裂弾が投下されている。そのためグローブス准将は、長崎市は原爆投下の候補地として不適と反対したといいます。しかし、スチームソン陸軍長官は政治的判断だといい、長崎市を目標地としました。 
爆心地と11時2分で止まった時計
長崎の爆心地と11時2分で止まった時計

<原爆投下の背景>
原爆開発を競っていたナチス=ドイツが、アメリカよりも先んじて原爆研究を進めているという情報がもたらされ、ドイツよりも早く原子爆弾を開発し、実戦使用する必要があると結論に達します。こうして1942年10月、マンハッタン計画がスタートしました。

当初アメリカは、ナチス=ドイツの都市に対して原爆投下を行う計画でしたが、ドイツが194558日に降伏したため、日本の都市に原爆を投下することとなりました。投下の理由については諸説ありますが、(1)戦後の共産主義勢力(特にソヴィエト連邦)に対する牽制説、(2)戦後の世界戦略を見据えてアメリカの軍事力を世界に誇示する説、(3)放射線障害の人体実験を行う説、(4)トルーマン大統領とその取り巻きの人種差別思想に基づく説、おそらくこれら全てを包含して投下されたのだと考えられます。

長崎原爆を伝える新聞
当時の新聞
 


<長崎の原子爆弾を描いた文学作品…
林京子『祭りの場』より>
突然急降下か急上昇か、大空をかきむしる爆音がした。空襲!女が叫んだ。物音を聞いたのはそれだけである。文字にすれば原爆投下の一瞬はたったこれだけで終(おわ)る。ピカもドンもない。秒速三六○米(メートル)の爆風も知らない。気づいたら倒壊家屋の下にいた。(中略)
被爆直後あたりは真暗(まっくら)になった。眼をみひらいているのに何も見えない。黒々とした闇がありだけだ。

作者の被爆体験をもとに、長崎の原爆投下の前後の状況を描いた作品です。勤労奉仕中に被爆した女学生の「私」の視点を中心に、その惨状がより客観的に描写されています。

原爆投下の是非については世界的に賛否が分かれています。2016(平成28)年現在、数はだいぶ減ったとはいえ未だアメリカ国民の53%が原爆投下は正しかったと答えています。賛成派の主な主張は、(1)戦争を早期に終結させるためには不可欠だった、(2)日本本土への上陸作戦を決行した場合、100万人以上のアメリカ兵が戦死し、それ以上の日本国民が犠牲になった。原爆投下がそれらの犠牲を未然に防いだ、というものです。

しかし、1945(昭和20)年8月の時点で日本軍は制海権・制空権を喪失しており、米軍に抵抗する余力は残されていなかったことを、米軍人は既に知っていました。原爆投下の一報を聞いた時、のちにGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の最高司令官として来日することになるダグラス=マッカーサー元帥は激怒したといいます。アメリカは外交手段で戦争終結させるいくつものカードを保持しており、日本が払った犠牲はあまりに大きすぎ、これは合衆国による虐殺だという意見は、当時のアメリカ陸海軍参謀の間から漏れ聞こえていたほどです。

2016(平成28)年5月27日、現職のアメリカ大統領バラク=オバマが広島市を公式訪問し、原爆慰霊碑に献花し、核なき世界の実現にむけた演説を行いました。今年はそれを受けての8月6日と8月9日です。広島市・長崎市での平和記念式典でどのような声明が発表されるのか、注目したいと思います。

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